授業と授業の間の休み時間、決まって窓際に位置する浜田の机に集まる田島と三橋と泉の三人。野球の話、雑誌の話が主な会話の中で、今日は珍しく三橋が話の中心となっていた。話の内容は阿部の事。
阿部との会話が途切れる事なく二分できただの、阿部が笑ってくれただの、聞いているこっちが妙に気恥ずかしくなってしまうものばかりで。けれど頬を赤らめながら懸命に話す三橋に、誰一人として横槍は入れなかった。
そこへ9組前の廊下を偶然通りかかった阿部率いる7組トリオに、すかさず田島が声をかける。
「お、阿部ー!」
「あ?」
田島の呼びかけに気付いた阿部は2、3歩戻り、廊下越しに9組内を覗き込んだ。
「三橋が好きだってよ!」
「た、たじまくん―ッ!!」
爽やかに且つ大声で、とんでもない事を口走る田島に、三橋は大慌てで椅子から立ち上がりどうにかして田島を止めようとしたが、それは奇妙な踊りにしか見えなかった。
呆然と立ち尽くしながらその光景を見ている阿部に、これまた軽く水谷が返事を返す。
「阿部も好きだってさー!」
間の抜けた声で口にされた言葉に、阿部は我に返った。
「なぁ!?水谷テメ!」
阿部が水谷にゲンコツに入れるが否や、チラリと視界に入った三橋によって阿部の動きは止められた。阿部の目に映る三橋は真っ赤な顔をして、どことなく嬉しさを堪えきれないといった表情をしていたから。
それにあてられてしまった阿部は瞬間湯沸かし器の如く、首まで真っ赤になってしまった。
「あーはいはい、ごちそうさま」
湯気が立ちそうなその場の空気を壊すべく、パンパンと二回手を叩きお辞儀をする泉。そこで再び我に返った阿部は、隣にいた花井の教科書をそっと取り上げ、その角を遠慮なく水谷の頭に振り下ろした。
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