グラウンド整備中の片隅で、田島と三橋がトンボ片手に珍しく言い合っていた。
三橋にしては声を上げ、いつもよりわりかしハッキリと言っているので勝手に耳についてしまう。それを僅か5秒で早くも後悔する栄口だった。
「三橋、スキだぜっ」
「オ、オレ も、スキだ よっ」
「ならオレはもっとスキだ!」
「うぉ、オレはもっと、もっとスキ だ!」
「オレはもっともっともっともっとぉーっ」
田島が全身を使って大きさを表現しているのを横目で確認し、隣でジョーロをちゃぷちゃぷと揺らす泉に栄口は視線を戻した。泉にだってあの会話は聞こえているはず。それなのに顔色ひとつ変えないで平然としていられるのはどういうことか、栄口はごくりと喉を鳴らし口を開く。
「ね、…なにアレ…」
アレと同時に持っているトンボの先をちょいとあの二人の方へ傾けた。
「あー?どっちがより好きか競ってんじゃねぇの?」
それを顔を上げ確認した泉は、さも普通の事のように答える。
田島と三橋はそんなものを競い合うほどの仲なのか、それとも今9組ではこういう遊びが流行っているのか、どちらにしろ栄口には理解しがたいものなのは変わりない。
それでも三橋があんな風に騒ぐ光景は滅多にお目にかかれないものなので、とりあえずこの場は深く考えないという事で自分を落ち着かせる。
「栄口、ここ頼む」
「え。あ、あぁ、はいよ」
表情ひとつ変えず、どっしりとしている泉に、何故か尊敬の眼差しを送ってしまう栄口だった。
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「三橋っ!」
そうやって名前を呼んで、濁ることを知らない水晶玉みたいな目でオレだけを見て、ずっとこのまま隣にいられたらそれはどんなに幸福なことなんだろう。
「田島 君」
名前を呼べば太陽みたいな眩しい笑顔がはじけて、もう余分な空間なんて残っているはずないのにまた掴んで持っていってしまう。
ズルいよ。オレばっかり好きが溜まってって余裕がなくなっていく。もう言葉に効力なんて全くといっていいほどないような気がして、だからオレは絶対に見失わないように。
「田島君、まって…!」
結局はまた名前を呼ぶ。
好き、好き好き大好き、ものすごく好きだよ。
この気持ちが田島君の全身に流れ込めばいいなって思いながら、もう一度名前を呼んだ。
全力で追いかけるから置いていかないで
そうやって名前を呼んで、濁ることを知らない水晶玉みたいな目でオレだけを見て、ずっとこのまま隣にいられたらそれはどんなに幸福なことなんだろう。
「田島 君」
名前を呼べば太陽みたいな眩しい笑顔がはじけて、もう余分な空間なんて残っているはずないのにまた掴んで持っていってしまう。
ズルいよ。オレばっかり好きが溜まってって余裕がなくなっていく。もう言葉に効力なんて全くといっていいほどないような気がして、だからオレは絶対に見失わないように。
「田島君、まって…!」
結局はまた名前を呼ぶ。
好き、好き好き大好き、ものすごく好きだよ。
この気持ちが田島君の全身に流れ込めばいいなって思いながら、もう一度名前を呼んだ。
全力で追いかけるから置いていかないで