何気無い、本当に他愛もない花井の発言に息を飲んだ瞬間からやけに体感温度が上がる。その熱は内側から田島の頬を蝕み、あっという間に鮮やかな色を付けさせた。
友人間に使う、好きだという言葉に大した意味なんてない。田島だってよく三橋に多種多様しているし、もちろん花井にだって使う。
それなのにどうしてこんなにも胸が熱く痛くなるのだろうか。それはきっと花井に言われたその単語が初めてだったから、だから吃驚した。そう、これは驚きからなんだ、なんて結論にこの場は至り田島は頷いた。
「何?」
「へ?なにが?」
「変な顔してんぞ」
田島の胸中自己解決を知らない花井は、田島の不可解な上っ面に些か疑問を持ち尋ねた。
「いや、なンもねーけど」
花井に好きだと言われて驚いたなんて大した事ではないが、何となく神経質な本人には言わずにはぐらかした。
「あそ?ならいっけど」
そんなに気にならなかったのか、アッサリと引いた花井は書店の方に向かって田島に背を見せた。その大きな背中から目を離せなく、田島は花井が先に歩き始めたのにも関わらずその場につっ立ったまま動かなかった。
「田島?」
続かない靴音に、振り返った花井と田島の間には少しだけ距離ができていた。それでも動こうとしない田島に花井は何やってんだと一息吐いてから戻り、田島の手を取って強引に引いた。
「え、えェェー!?」
「お前がボサッとしてっからだろ! ボケ!」
悪態を吐きながら前を歩く花井にぎゅうっと握られた手は、火傷をしてしまうのではないかと思うほど熱くなっていき田島の息も上がる。
花井の言動に自分の感情。アップアップになってしまっている今は何も考えられなくて、田島は花井の手に引かれるまま足を進めた。それでも何故か花井の後頭部を眺めながら「坊主のくせに」と何度も心の中で言った。
>難しい感情は分からない。だけどただ単純に
このまま一生、花井といたいと思った。
ご無沙汰してました!なんとか生きてます。
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自転車を駅前に止め、表通りから一本裏へ入った路地を二人並んで歩く。角を曲がると目当ての書店の看板がほんの少し遠くに見えるが、実際に歩く距離は大したものではない。
無意識に歩幅を合わせながら、よくよく考えると田島と二人でこうして肩を並べて歩く事はあまり多くないと気付く。二人の移動手段が決まって自転車だからだろう。そう思えば今この時が何だか貴重な時間のように花井は感じていた。
「参考書って何の?」
「数学。花井、いいのがあるっつってたじゃん」
「あー、はいはい」
約束事の全てを忘れていそうな花井に、田島の唇が不機嫌そうに上を向いた。田島のあからさまな態度に花井が思わず笑うと、唇に次いで頬も膨らむ。花井がすかさず頬を掴んで空気を抜いてやると、ぷひゅっと変な音がした。その顔と音に花井は声を上げて笑い、田島も口では文句を言いながらも一緒になって笑っていた。
こんな他愛もないやり取りに花井の胸が弾む。その理由は随分昔から分かっていた。けれど今は一つだけ、心が晴れない問題があった。
「……あのさ、ほんとにいいのか?」
「なにが?」
これで何度目になるのか分からない、同じ質問を投げ掛ける。キョトンとする田島に花井は構わず続きを口にした。
「大学だよ。きてたんだろ? スカウト。あとプロの話も」
「まーたそれかよ」
まるで母親の小言を聞き流すようにスタスタと先を行こうとする田島に、それでも花井は食い下がろうとした。
「でもお前っ」
「だーかーらー、プロにはそのうち行くよ。それよりもまずは大学でやりたいんだって。それには花井がいないと意味ねぇの!」
サラリとプロ宣言をする田島に花井は思わず呆気に取られそうになったが、一先ず問題はそこではないのだと首を振った。
道路の真ん中で足を止めてしまった田島の腕を引き、路側帯を跨ぐ。角の自販機の前まで移動すると花井はまた田島と向き合った。
「あのなぁ、オレよりもスゲー奴なんてどこにでもいんだろ」
それこそごまんとと花井はタメ息を吐きながら腕を組んだ。しかし田島は引くどころか余計に食って掛かる。その表情はどこか必死さを感じさせた。
「ちっげーよ! 花井がいんだって! 2年半なんて全然足んねーよ! 大学でも花井と野球したい。だから同じ大学を受験する。理由には充分だろ!?」
真剣に、真正面から向かってくる田島に、花井はこれ以上野暮な事など言えるわけもなかった。田島が落ち着くのを見計らい、一息吐いてから花井は口を開く。
「……お前、それで落ちたらどーすんの」
「だからこーして勉強してんだろ!」
田島がバンと叩いたエナメルバッグからはやたら重そうな鈍い音がした。その中身は参考書やら過去問やらが沢山詰まっている事を花井は知っている。
野球の強い大学からのスカウト、噂ではプロからも声が掛かっていたと聞く。そんな輝かしいレールを迷うとも進もうともせず、田島は花井を選んだ。
田島の意思に酷く驚いた花井はその決断から数ヶ月経った今も、こうして時折確認染みた真似をしてしまうのが現状だ。
花井を選んだ田島の眼には、その先に一体何が見えているというのだろうか。どうしてそこまで自分に執着するのだろう。分かるはずもなかった。
「……オレ、お前がサッパリわかんねぇ」
少し伸びた後ろ髪をカシカシと掻き、花井は細めた目で田島を見下ろす。馬鹿にされていると思った田島は降ってくる視線を、同じように目を細めて見返した。
「ンだよいきなり」
そういうつもりで言ったのではないのにこの反応。単純と言うか素直と言うか、田島らしくて笑ってしまう。大学の件もそうだ。花井が何を言おうと曲げる気がないのは初めから分かっていた。そんな田島を花井は好きになったのだから。
花井は田島と合わさったままの視線を一度下に外し、でも……と呟きながらまた顔を上げた。
「わりと好きだよ。そーゆうとこも」
スラリと口から出た言葉に余計な感情はついて来なかった。純粋に田島を想う気持ちが込み上げそうさせる。
内に秘めた恋心がいつ泡となって消えていくか想像もつかないけれど、まだ未知なる先にも田島がいるのならばそれも悪くないのかもしれないなんて思い、一人苦笑した。だから、花井の発言にじんわりと頬を染めた田島に花井は気付く由もなかった。
>前回のメモから日にちをかけてじっくり考えて書きました。個人的に納得のいくモノを書けたのは久々です。
本当はメモではなくきちんと更新物として上げたかったのですが、生憎時間が取れないので一先ずメモに上げました。いずれ移動させます。
私生活では彼女が出来ました!……そう、彼女、つまりガールフレンド!
うん……とどのつまりラブプラスをプレイ中なんです(GS版熱望!マジで!)
高校生活三年間の中で最も暑い夏が終わり、残すは受験一色となった。
成績は良く、さほど勉強が嫌いではない花井もさすがに受験特有のプレッシャーに呑まれつつある今日この頃。真っ直ぐ帰宅する気にもなれず、図書館へ寄って行こうと校門を出たその時、後ろから聞き慣れた声で呼ばれ振り向いた。
「花井! 約束忘れたのかよ!」
ブンブンと重そうなエナメルバッグを振り回し、田島が眉を吊り上げ花井に駆け寄った。明らかに怒っている田島を前にしても、花井には約束という言葉から連想できるモノが浮かばない。
「え、と。……なんだっけ?」
「信じらんねー! 参考書買いに行くの付き合ってくれるっつったじゃんか!」
本気で忘れている花井の様子に田島は憤慨する。花井もそれでようやく思い出したらしく、しまったという表情を浮かべてから素直に謝罪した。
「わり、今日だったっけ。来週かと勘違いしてた」
本当に勘違いしていたのだけれどもそんな言い訳、今の田島には聞き入れてもらえないだろうと思う。しかし田島はその言い訳ですらどうでもいいみたく、すぐに花井の謝罪を突っぱねた。
「別にいいよ。それで? 付き合ってくれんの、くれないの、どっち?」
「付き合うよ。お詫びに肉まんもつける」
「もちろん缶コーヒーも、だよな?」
そう言ってニ、と笑った田島の頭を、花井はハイハイとなかなか手懐けられない子供を前にしたような気持ちでわしわしと乱した。
>花井片思い。ちょっと続くかもです。
悩み事なんて一晩経てば悩み事ではなくなるような性格。だから増してや食欲が落ちるなんてこの方ありもしなかった。それなのにどうしてだろう。目の前にある大きめなおにぎりになかなか手が伸びない。
「はー……」
そしてタメ息。これには隣で黙々とサンドイッチにかぶりついていた泉もその手を止め、口を開けたまま田島に視線を寄越した。
「んだよ、辛気くせーなぁ」
「泉……」
「あ?」
ブリックパックにまだ半分ほど残っている牛乳を一気に飲み干すつもりで泉は強めにストローを吸う。もう視線は田島から外れていた。
「花井先輩って、なんであんなカッコイーんだろうな……」
突然漏らした田島の発言に、泉は思わず口に含んだ牛乳を力いっぱい吹き出しそうになった。しかしそこはなけなしの力を振り絞ってなんとか食い止める。それでも多少緩んでしまった唇にはうっすら白さが残ってしまっていた。
「いきなりなンだよオメーは!」
唇を手の甲で拭いつつ田島に抗議の声をあげるが、その田島の見せる虚ろ気な眼に思わず二の句を飲み込んでしまった。
これは堪でしかない。だけどヤバい気がする。泉は焦点の定まっていない親友の頭をムンズと掴み、上下に振ってやった。
>単なる憧れであって欲しいと願う。
当たり前ですが書いていないと書けなくなるんですよね、小説も。とりあえずリハビリです。面白くなくてサーセン……!
JSB!のトップページに絵がつきました。白くて淋しいよと言ったら描いてくれた相方、彼女は天使かなにかですか? バナーにも期待です☆
屋上からひとつ下りると三年の教室、さらに下へ下りると二年の教室がある。田島がそこまで下りてくると教室の方から騒がしい足音がして、何だと思わず足を止めた。
すぐに廊下から姿を現した足音の主は田島のよく知る顔、野球部の主将花井だった。
「田島っ、いいとこにいた! ちょっとかくまってくれ!」
「へ? あ、ちょ……っ」
花井は階段の踊場に田島の姿を確認するや否や駆け寄り、田島の背中越しに身を潜め出した。段差を使って体を隠した為、田島との体格差でもぱっと見分からない。
花井の唐突な行動に成す術なく、ただその様子を見ていた田島にまた声がかかった。
「あ、野球部! アンタんとこのキャプテン見なかった!?」
花井に少し遅れて廊下から現れた、先輩らしき女子が息を弾ませ田島に聞く。その様子から田島は瞬時に花井の気持ちを汲み取り、素知らぬ顔を向けたのだった。
「や、知らないっす」
「まったくもうっ。どこ行ったのよ、あのハゲ!」
怒ったような困ったような表情で、女子はそのまま廊下を駆けていった。
「……行ったっすよ」
「おー、悪かったな」
田島の背中からひょっこり顔を出した花井は、窮屈な格好をしていたのか体をパキパキと鳴らして踊場へと上がる。
一体何があったのかと口を開きかけた田島の頭を、花井の大きな掌がポンと優しく叩いた。
「助かったよ。ありがとな、田島」
そう言ってすぐに去っていく背中を眺めながら、何故だかは分からないけれど田島は少しだけ淋しさを感じた。
>考えてみれば野球部以外の先輩の顔なんて知らない。
昨日今日と家に帰ってません。娘が熱を出している為に一緒に実家泊まり。
いやはや。
……おなかすいたっ。
以下メルフォレスです。拍手もいつも有難うございます!