花井からきた呼び出しメールに従い、田島は屋上へと続く階段の踊場に立つ。そこには既に花井が待っていた。
「おー、いきなり悪かったな」
田島の姿を確認するや否や、花井は手招きをして田島を死角へと誘い入れる。辺りが静まり返っているのは、今がまだ授業中だからだ。
「別にいーけどさぁ。オレ、トイレっつって抜けてきたからすぐ戻んねーと」
ウンコと間違われたらたまんねーよ、と笑う田島に、花井はすぐ済むからと田島に向き直った。
花井の真剣な表情に周りの空気がピンと張り詰める。つられて田島も拳を握った。
「田島、オレな」
「うん」
「いろいろ考えたんだけど、なんつーか、オレも……」
震える指先に力を込めふと顔を上げると、田島の大きな眼が花井をしっかりと見据えていた。この視線をずっと独り占めしたい、花井は心底そう思った。
「オレも、田島が好きだ」
花井の突然の告白に、ほんの少しだけ見開いた田島の目元はうっすらと赤く色づいていた。
>あの日の告白、まだ有効?
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その日の午後の授業は全く頭に入らなかった。
阿部に言われた言葉と照らし合わせるかのように田島の顔が浮かんでは離れない。
(オレは……田島が好きなんだろうか)
好きだと言われた時は吃驚したけれど嫌ではなかった。むしろ嬉しくすら思う自分がいて。
(じゃなかったらあんなコトしねぇ、よな)
田島にキスをしたのはカッとなった気の迷いからだけではない。きっと、もっと自分を見て欲しかったから。
(田島が、……好き?)
英文を走らせるペンを止め、ノートの余白に田島の名を綴る。
(田島が、好き)
視覚として現れた田島の名前、それを見ると心臓が少し速いテンポを打ち始めた。ドキドキと高鳴り、呼吸がしづらい。
(そうか。田島が好きなんだ、オレ)
ハッキリとした感情芽生え、ふわりと花井の視界が明るくなる。すると浮き足立つみたいに、体が急に落ち着きをなくし出した。
>今すぐ田島に会いたい。
図書館で娘が選んできた絵本の中に沖縄での戦争を題材にしたものがありました。
言葉をぼかす事なくハッキリと書かれているので容易に戦争の悲惨さが想像できます。イラストも然り。
園にもあるのか、自分からこれを持っていき先生に読んでもらった事があるらしい。それをまた図書館で借りてくるぐらい何か印象に残るものがあったんでしょう。
娘にもこの絵本にも、何かいろいろ考えさせられたのでした。
お粗末っ。
「もうまじウゼーから言うけど、いい加減認めたら?」
その言葉の通り、思いっきり面倒臭そうにタメ息を吐き出しながら阿部は言う。なんて失礼な奴だと思いながらも、花井は阿部の言葉の意味をぐるぐると考え出した。
「ちょっと、阿部」
「何だよ」
一体阿部が何を言い出すのか黙って見ていられない栄口は、阿部の耳を摘んで引き寄せた。
「まさかとは思うけど……」
「あー、そのまさかだろうな」
「ええっ、やめときなよ」
「いつまでもウダウダやってられる方がいい迷惑だろ」
「そ、んなことは……ある、か」
「だろ?」
一概に否定できないと栄口は首を捻る。が、しかし第三者が首を突っ込むのは如何なものかとまた首を捻ったその時。
「あのさ、」
「ん?」
今の今まで自分の思考に没頭していたであろう花井が、気がつけば神妙な面持ちで栄口の方を見ていた。
「オレ、二人になんかしてんの……?」
内緒話にしては大きすぎた阿部と栄口の会話に、花井はどうやら気が気でなくなったらしい。一体自分がどんな迷惑をかけていると言うのか。その思考の先に多分田島の姿が入ってるようには見えない。
「……えーと」
思っていたよりも鈍感らしい花井に、栄口は何とも困った表情のままチラリと視線を阿部に向けた。その先の阿部はというと、栄口同様、花井の鈍感さ加減に呆れたような諦めたような表情を見せている。
「花井」
「な、なに」
阿部に名を呼ばれ、花井の肩に力が籠もった。
「お前は田島のことが好きなんだ。いい加減認めてサッサと告ってこい」
その阿部の発言に花井の動きは止まり、直球すぎると栄口は額を押さえた。
>苦労人栄口。
週末に予定が重なってしまいなかなか時間が取れません。今週末はゆっくりPCにむかいたいなー!
あ、でも今週は仕事が忙しくて残業、最悪休日出勤になるやもしれんのだ……。あたし泣かないっ!
いつも拍手有難うございます!パワーもらってますよぉぉ!
バッティングセンターの帰り途中、立ち寄った公園で花井は田島に詰め寄られていた。
「花井」
「……」
「ねぇってば」
「わぁってるよ」
半袖のシャツの袖を田島に引っ張られ、これ以上引き伸ばすのも逃れるのも無理だと覚悟を決める。
開いた口から滑るのはほんの少しだけ乱れた呼吸音。唇が乾き、何度か唾を飲み込んだ。
「ゆ、……ゆう」
「ぶー! 略式だめー」
やっとで出たというのに田島には納得のいくものではなく却下される。可哀相に花井の肩の力が増した。
「花井言わないんならオレが」
「ザッケンナ!」
続きを言わせるものかとばかりに花井は声を上げた。
「じゃあ早くしてよ」
田島の反撃にもう反抗するのも疲れるだけだ、と花井は一つ深呼吸をしてから田島を睨みつけ、言う。
「悠一郎!」
「はーい! 梓っ」
その名前を親以外で呼ぶ事を許した経験はない。虫酸が走り、ますます自分の名前が嫌いになっていった。けれど今回は違う。
田島に呼ばれた名前は何だかくすぐったくて、それと同時に顔の熱は上がっていくばかり。不思議と嫌ではなかった。
「……っ、もう二度と呼ばねぇ!!」
「ええっ!?」
例え照れ隠しだとバレていようと、すんなり田島にいい顔をされるのは面白くない。
名前呼び。今はまだ賭け事の対象で充分な花井だった。
>甘い関係には程遠い二人。
逆/転/検/事ばっかりやってますすみません!土日でクリアするつもりが長引いてます。
ナンテアタマワルイアタシ…!
新年度が始まって二ヶ月。後輩という存在にも慣れてきて主将としてもより一層力を入れる中、気がつけば一人困った後輩に振り回されるようになっていた。
「はないー!」
「田島っ。だからお前は先輩かさん付けしろよ!」
「えー」
「あと敬語な!」
困った後輩――田島悠一郎は阿部曰わく、中学で強いチームの4番を打っていたらしい。本人の子供っぽさと底抜けの明るさに初めこそ花井も半信半疑だったが、それもすぐになくなった。
入部して早々の田島のバッティングを見てわかってしまったから。嫉妬すら覚えながらも、まさか一年坊に見とれるとは思ってもみなかった。
「ハイハイ、わかりましたよキャプテン!」
「ハイは一回!」
花井の小言に耳を塞ぎながら、田島はキョロキョロと辺りを見回す。本格的な説教が始まる前に、誰かいい逃げ道になりそうな人物を探しているらしい。
「あ、三橋せんぱーい!」
「あ、こら田島!」
田島はベンチから出てきた三橋を見つけると、一目散に花井の前から逃げ出した。あっという間に三橋に声を掛ける田島。その脚の速さにまた、花井の胸のあたりがモヤモヤした。
>嫉妬羨望憎悪はたまた恋?
次の長編に書く予定のものはこんな感じ。今度は花田先輩後輩パラレルです。
二年→
花井、阿部、三橋、栄口、水谷
一年→
田島、泉、巣山、沖、西広
じっくり練っていきたいと思います。その間に恋に~を終わらせねば!
毎日拍手有難うございます!嬉しいですあざーす!