1年ってほんとあっという間ですね。トシを重ねるごとにますますそう思っていきます。
今日は、昨日の仏英の続きっぽいのをたたんで置いていきますー。まだ続きます。
これ終わったら原稿やりつつ、花田をちょこちょこ上げにこれたらいいなー、なんて。
+ + + + + + + + + +
アーサーが来店しているとき、必ずと言っていいほどフランシスは客と談笑していた。それも決まって相手は女性ばかり。いかにも女好きそうな甘いマスクに、傍から見ていて呆れる。この日もそうだった。
(俺みたいなのとは一生縁遠そうだな。ああいうタイプは)
アーサーはフランシスを一瞥すると、トレーに乗ったパンが落ちないよう気を使いながらレジカウンターへ足を運んだ。カウンターにトレーを置く。すると、少し遅れて店員がやってきた。
「いらっしゃい。おまたせしました」
頭上からした声にアーサーは軽い溜め息を吐いた。顔を見なくても分かる。この甘ったるい声はフランシスしか有り得ない。なんだか疲れがどっと増したような気がした。
さっさと済ませて帰りたい。トレーを凝視しながらそう思うアーサーに、またも頭上から声が掛かった。
「いつも俺の作ったパン、選んでくれるね」
「え?」
突然の問い掛けに、アーサーは驚いて顔を上げた。
「これとこれ。俺が作ったやつ。それに新商品の中からいつも俺のを選んでくれてる」
「あ、そ……うなのか」
「うん。いつもありがとうね。偶然かもしれないけど、君が俺のパンを必ず取ってくれるのがいつも嬉しくて」
アーサーを見つめながら、フランシスは柔らかい笑みを零した。
「べ、別に、そんなんじゃ……」
フランシスの言う通り、本当に偶然でしかなかった。ただいつも食べたいパンを選んでいるだけ。新商品だってそうだ。三種類並ぶ新商品の中で、気に入るものがいつも一つだけある。それが、フランシスの作ったものだなんて全く知らずに。
アーサーは、何故だか妙な気恥ずかしさを覚え、すぐにでもこの場を立ち去りたい衝動に駆られていた。しかし、フランシスの問い掛けはまだ終わりそうにない。
「あ、ねぇ、名前は?」
そんなもん聞いてどうすんだ、と言いたかったが、突っぱねる気力もあまりないので素直に答えた。
「アーサー」
「アーサー……いい名前だね。もしかしてイギリスから?」
「そう」
そこまで答えると、フランシスは急にだんまりになってしまった。
「なに? イギリスからの留学生なんて、今どき珍しくもないだろう」
アーサーが訝しげに言うも、フランシスの反応はほとんどないに等しい。そして、さっきから額の辺りに感じていた視線は気のせいではなかったと知る。
「……なんか文句でもあんのか」
「え? いやいやないよ! ゴメンゴメン」
アーサーにギッと睨まれ、フランシスは持っていたトングをブンブンと振り、慌てて体裁を繕った。
「可愛らしい眉毛だと思って、つい。ゴメンね」
「かわ――っ!? ……喧嘩売ってんなら買うけど」
「え! 売ってない売ってない!」
またもブンブンとトングを振るフランシスに、アーサーは睨むことすら惜しく、ぶっすーとそっぽを向いて不機嫌を露にした。目の前で、フランシスがあたふたと慌てているのが気配で分かる。
PR